◆不登校児へのネットワークケア(1998年秋発表)


演題名  不登校児へのネットワークケア

所属 国立大蔵病院 小児科
発表者 伊澤正雄 窪 理佐 前田かおり 平木こゆみ 阿子島茂美 田原卓浩

[はじめに]
近来従来のプライド損傷による登校拒否に比べて、過剰適応により身体症状を呈する不登校児が増加している。協調性・向上心は強いもののそれが過度になり、いわゆる「からだ」が「こころ」についていけない状態になっている。自ら環境を積極的に変化させる力はないが、環境の変容が自己回復のきっかけを作り得るため、家庭環境(親子関係を含む)、学校環境、社会環境の変容を図ることを目的として、病院のカウンセリングの枠を時間的・空間的に拡大し、学校や地域と連携をとったネットワークケアを当院では行っている。治療場面として院外団体「発達共助連」を形成し、患児も家族もさまざまな人と繋がりをもつこと、患児に対してDS(Devetopmental Supporter・発達支援者)がつき、心理面や学習面に支援をしている。
この「発達共助連」にはDS(学生や主婦など)・患児・患児の家族を中心にさらにカウンセラー・教師・塾の講師・教育相談室職員・会社員・主婦などがボランティアとして参加し、ディキャンプ・月例会などを定期的に持ちながら、その場その場でできることを教授している。今回われわれはネットワークケアの機能について検証を加えたので報告する。

症例

患児:20歳・女児(初診時小学校6年生)
家族:祖父母 両親 患児 妹 一番下の弟の誕生と同時に不登校が始まる。妹(小学校3年生)も不登校。外出ができず、一時は歩行も困難であった。不安感が強く、患児も妹も片時も母親から離れることができなかった。しかし、家事の手伝いはよくやり、弟の面倒などよくみていた。母親は自分自身が長女でもあり、大変に受容的な性格であった。カウンセリングが開始されると徐々に外出ができるようになり、中学で登校開始、高校では欠席はほとんどなく卒業した。現在、専門学校生である。並行して妹に対しても同じように下記のようなサポートが行われた。

〔DSによるサポート〕

戸外に連れ出し、興味を外にむけた。学校行事(校内マラソン・お別れ会・卒業式)などにDSが同行し、参加することを支えた。また、いつでも登校可能な状態を形成するため学習面のフォローも実施した。
母子分離不安が減少し、興味が外に向くようになった時点で段階的に、登校を促した。

第1段階 DSが同行し、登校。そのまま下校。
第2段階 DSと保健室にて学習。
第3段階 患児は学級の学習に参加。DSは廊下で待機。
第4段階 DSは登下校時のみ同行。
第5段階 患児が1人で登下校。学習参加。
この時のDSは現在、不登校児のための適応指導教室の教員をしている。

〔病院でのカウンセリング〕

母親・患児に対してカウンセリングが行われた。
第1段階 DSが患児と関わっている間、母子分離を図るとともに母親の休養も確保する。
第2段階 母親が一人で外出し、出先で患児と待ち合わせ。
第3段階 患児と妹だけで留守番、母親と完全に分離。
患児へは自立訓練法・脱感作法を実施することにより、不安を緩和することができるようになった。

〔学校訪問 学校との連携〕

学校の理解を得るため、カウンセラー・DSらにより何度も訪問が実地された。担任と頻繁に連絡をとることで、いつでも登校できる状況が形成され、またDSが付き添って登校が開始された時点では、学校側の理解と細かな配慮を受けることができた。学年の変わり目や進学の時など、担任と共通理解できる状態を維持することに心がけた。

〔「発達共助連」地域の人との関わり〕

発達共助連主催のキャンプや関係者が開いている「理科の塾」への参加、関係者の経営する会社でアルバイトなど、小集団の中で人間関係を持つことで、学校という大きな集団に参加するための練習となった。また、自己の行為が認められることで自信をつけることができた。

〔ネットワークの強化〕

これらのサポートを効果的に行うには、随時変容し続ける環境に対応すべく、ネットを意識的に繋ぐ必要があった。頻繁に行われた学校訪問、DSへのスーパーバイズやDSからの報告などによったが、さらに他の患児を担当しているDS同士、親や家族同士、患児同士との交流が発達共助連の活動を通じて行われ、細かなネットワークが形成された。
〔まとめ〕

不登校は身体症状が消え、学校へ復帰しただけでは治療の終了とはいえない。患児が自己に自信を持ち、不登校であったことを勲章にし、元気で楽しく毎日をすごせて初めて終了といえる。不登校は、予後が悪く、再発することが多いが、このサポートシステムの中では再発という事態は現在までのところ認められていない。ネットワークケアの中で多くの人との関わりと支えがあり、患児も親もDSとなった学生や主婦もともに成長を遂げていることが一因とも考えられるが、このシステムによる治療効果をより高めるにはDSの育成がきわめて重要と考える。