◆不登校児へのネットワークケアII (1999 年秋発表)


本論文(要旨)は、1999年10月14日〜16日、札幌で開催された「小児保健学会」で発表したものの要旨である。
所属:国立大蔵病院成育心理外来

発表者: 伊澤正雄  田原卓浩 前田かおり 平木こゆみ 阿子島茂美 窪理佐

当院を受診した不登校児の中で既に重症化した18名(受診時年間100日以上の欠席)に対し、治療を試みた結果15名が、ほぼ毎日出席という状態までの回復をみた。この高い回復率はネットワークケアに負うところが大きい。病院内だけの治療から家庭・学校・地域と有機的に連携し、患児をとりまく環境を変化させていくという治療方法が、悪化し長期化した不登校に対して大きな効果をもたらすといえる。

【はじめに】

国立大蔵病院成育心理外来('99年4月、精神科小児科心理外来から組織変え)では、全受診者に対する「不登校」の占める割合が半数を超えている('97年・60%)。特に初診時に身体症状を伴わない不登校児が増加傾向にある。
これに対応するため、院外団体「発達共助連」を組織している。家庭・学校・地域・病院でネットワークを形成し、療育にあたっている。今回、長期化、悪化傾向にある児に対して、若干の成果を得たので報告する。
(Webmaster注・発達共助連は不登校児のネットワークケアだけでなく、子供たちのさまざまな心身の不適応に対応してネットワークケアを実践しているが、本報告では学会報告の性格上、あえて不登校児に絞っていることをご承知いただきたい)

【ネットワークケアの対象・方法】

対象者:18名

1997年受診不登校児28名中の「共助連」加入患児。
身体症状との関連をみると

身体症状が無く不登校状態で受診 5名
療育中身体症状は消失、不登校状態 5名
身体症状が続き不登校状態 8名

計18名となっている。
そのうち年間100日以上の学校欠席者は16名であった。

方法

1) DS(発達支援者)を患児につける
2) 学校との連携(学校訪問・教師の来院)
3) 月例会(事例研究・懇親会)
4) キャンプ(デイ・シーズン)
以上の4つを中心とした。

1)のDSがついた児は18名中17名
週1〜2回の家庭訪問 1開時間程度
<ねらい>
@DSを児の観察学習の対象とする(モデル)
A固着した家庭内人間関係をほぐす(閉じこもり・家庭内暴力等への移行の防止)
B学業の補償(長期の「不登校」には必須)
C患児側にたった相談相手(児を認めてくれる人をつくる)
D親の自由時間の確保(患児から離れて冷静さとエネルギーをとりもどす)

2)の学校との連携をはかった児は18名中16名。平均訪問回数は2.4回であった。
<ねらい>
@学校側から見た患児像を知る(家庭場面と食い違うことが多い)
A学業不振・いじめ・無視等の有無の確認(LDを含む)
B児のために変化させられる環境の有無(制服・早退・保健室登校の許諾等)
C連携できるかどうかの判断

3)の月例会は'97'98で22回開催
<ねらい>
@不登校児への共通理解(事例研究・元不登校児の講演)
A同じ境遇の親もしくは教師同士の情報交換(懇親会)
BDSの勉強および情報交換の場

4)のキャンプは'97'98で夏・冬の宿泊キャンプを含めて15回実施
<ねらい>
@患児と親との関わりの観察
A患児とDSとの関わりの良否の観察
B患児の集団への「慣れ」の場の提供
C他の親子関係を互いに観察
D患児の興味関心、運動能力等の観察
E自然の中でのリラックス

<注>
1)のDSには一般学生・院生・主婦・経験者等がなっている。
2)の訪問には担任以外の教員・他校の教員・患児・DSの同席の場合もある
3)の月例会4)のキャンプは参加者は患児とその親だけでなく、DS・医師・教師・患児の友人・その他興味関心のある人、多様な人々を含む。

これらを有機的に関係づけ、抱える問題の焦点化をするために院内カウンセリング(月2回前後)が施され、対象は患児・親のみならずDS・担任にも及んだ。

【結果・考察】

このようなネットワークケアが行われた結果、'99年3月現在
◎身体症状が無く、不登校を主訴とした5名のうち、回復は3名、週1〜2回の休みを入れながら登校中1名、全くの不登校1名である。
◎療育中身体症状が消失し、不登校であった5名のうち、回復は3名、週1〜2回の出席1名、全くの不登校1名である。
◎身体症状が続き、不登校であった8名は回復が7名、週1〜2回の出席1名であった。7名とも身体症状は回復時に消失。

以上のことから身体症状の無くなる時期に不登校状態も解消していることが望ましく、そのためには病院での治療だけでなく、家庭・学校・地域と有機的に連携し、児を取り巻く療育を積み重ねていくのが、悪化・長期化を防ぎ、遠回りのようで一番近い解決方法であると思われる。