留学帰国組が起業

人材確保+公的後押し

ハイテク事業地方でも

 北京・中開村、上海に次ぐ中国第三のハイテクセンターとして米IBMなど情報技術TT)やバイオ関連企業の設☆、進出が続いている西安(険西省)。市内南部にあるハイテク工業開発区の核企業のひとつ開元集団は中国のハイテクを支える″大学ビジネス″の成功例だ。 

大学が事業

 閑元集団は中国有数の理工系大学である西安交通大学が一九八九年に設立した。パソコン用のイメージング・センサー、ICカードなどマイクロエレクトロニクス製品を中心に開発・敗売してきた。設立当初十人だった従業員は現在千三百人まで拡大し、昨年は売上高が四億九千万元(一元=約十三円)、純益は三千九百万元に達した。

 「大学の最新の研究成果をいちはやく商品化できるのが大きな利点」。開元集団の研究・開発を統括する李根乾・博士は急成長の背景をこう説明する。

 大学と企業の産学協同では企業が特定の研究テーマを持って契約で研究者を大学に派遣したり、研究費を分担することで戌兇を得る。これに対し、大学直轄型企業では学内の幅広い研究成果を随時、事業化できる。大学の中で商品としての有望性に気付かれない研究成果を発掘したり、研究者では発想できなかった形で商品化するのが真骨頂だ。

 例えば、開元集団はイメージ処理技術を背景にパソコンを使ったテレビ電話、テレビ会議のための小型カメラシステムを商品化した。これはさらに防犯用のモニターカメラ、アパートのオートロック装置にまで応用され、同社のヒット商品に育っている。

 開元集団は政府の進める「政府系機関と現業の分離」という政策に基づき、最近、株式会社化され、西安交通大の持ち株比率は三〇%まで下がった。だが、「その配当収入だけでも大学の研究設備の拡充に貢献している」(李博土)。年内には香港または上海の証券市揚に上場する計画で、大学側には上場益も入る見通しだ。

 中国ではその他にもパソコン業界第二位の北京大学系の北大方正(ブランド名はファウンダー)や、清華大学傘下のパソコンの清拳同方、バイオ医薬の精華紫光など有力な入学ビジネスが林立し、ハイテク産業の中核になっている。

資金と信用

 大学の傘下での企業活動は大学による経営への干渉などのリスクもある。だが、資本市場の発達していない中国では、大学の資金と信用力を使える有利さは大きい。実質的に大学がインキユベーター(ふ卵器)の役割を務めている。

 さらに清華大などは米マサチユーセッツ工科大などと提携したMBAコースも持っている。研究・開発だけでなく経営哲理面で支援できる強みもある。

 江西省南呂市の金鷹ソフトウェアゾーン。ソフト開発会社十数社が軒を連ねる中で、中国のソフト業界で注目を集めている企業がある。業務統合ソフト(ERP)を開発している金鼎軟件(ソフト)開発公司だ。

 「六十日問の苦労が大きな利益を生む」。ソフトエンジーテ数十人が机を故べる社内にはこうしたスローガンが大きく掲げられている。同社が北米市場向けに開発した英文版中小企業向けERPソフト「サブリナ」のバージョンアップを六十日間で達成しようという目標だ。一本五万jで九八年末に発売した「サブリナ」は売れ行き好調で、バージョンアップで市場を三割に拡大する。

少ない就職先

 なぜ南昌という内陸地方都市で米市場何け商品を開発できるのか11。その秘密は創業者の辛謙・董事畏にある。南昌出身の辛氏は米留学後、シリコンバレーでコンサルティング会社を設立。顧客向けにERP開発に芋を染めた際に開発拠点として月をつけたのが地元、南昌だった。

 南昌をはじめとする中国の地方中核都市は大学卒の就職先が曳ないため優秀なソフト開発要員を集めやすい。最近では大学が英語教育に力を入れているため英語能力の高い学生を選べる。同社では日本の共検一級にあたる英語力を持つソフト開発者を選んで採用した。現在は八十人の陣容に達し、英語アフトの開発力を持った。

 一方、辛・董事長はシリコンバレトに常駐している。販売にあたるとともに顧客ニーズなどの情報を南昌にフィードバックし、市場のニーズを柔軟に取り込んだ商品づくりに成功した。

 「南寧留学人員創業園」。広西チワン族自治区の省都、南寧の工業開発区で目立つのはこの看椴だ。先進国に留学した学生がベンチャー企業を起こすのを支援する制度で、工場、事務所用地を低価格で提供したり、資金を貸し付ける。

 パソコンメーカーの南寧勝利電子は南寧の創業囲最大の企業。広東省出身者の胡飛躍氏らが設鼓した。年百万台の製造能力を持っている。主にOEM(相手先ブランドによる供給)でデスクトップパソコンを五、六社の中国国内メーカーに供給し、急成長している。遊輝廉・経理は「工員の人件費が月額四百元と全国的にも安く、公的なバックアップも大きい」と南寧創業園への立地の有利性を指摘する。

 こうした留学からの帰国組を誘致する開発区は地方都市に急増しており、すでに三十二カ所に達した。ビジネスセンスと專門卸識を持った留学組が人件費や技術者採用で有利な地方都市に根を下ろせば、中国の起業ブームは新たな段階を迎える。(北京=後藤康浩)日経新聞2000.8.22。