原動力は「国有民営企業」、理工系人材に強み
From:日経産業新聞 200068日 24版

 中国のハイテク産業の拠点である北京・中開村が世界の情報技街(IT)産業の強い関心を集めている。急成長する中国のIT産業のけん引率としてパソコンの「連想(ニレジエンド)など中国企業をグローバル市場に送り出す一方、世界でもトップクラスといわれる理工系人材を抱え、マイクロソフト、インテルなど世界のIT企業の研究開発センターを次々に引き 寄せている。世界のIT 産業集積の一角として台頭する中開村を追った。(北京=後藤康浩)

 中国の”秋葉原″大きく様変わ

 北京市のへそにあたる安門広場から北西に単で鮒三十分。清代の名園として知られる頤和園、円明園の間近、北京大学、清華大学など中国の超一流大学のキャンパスと背中合わせに中関村が広がっている。十年ほど前までは家宅製品や電子部品の小売店が軒を並べる″中国の秋葉原″として知られていたが、街の性は大きく変化した。

 中開村は五`四方ほどの狭い地域にハード、ソフト企業の本社が集中斑地し、昨年は北京市の調査によると、売上高ベースで八百六十四億元(約一兆二千億円)をあげた。先進国の大手IT企業一社の売り上げに打徹する程度だが、売り上げの四〇%を占めるソフトの価格が先進国の五分の一以下であることや工場機能は広東省、福建省などに分数していることを考慮すればそれなりの規模と言える。

 代表的企業の連想は昨年、百四十七万台のパソコンを販売、中国で二一・五%のトップシェアを握る。日本を除くアジア地域でも九・一%のシェアで、コンパック、IBMの米二強押さえ初めて首位に立った。

 連想を追って北大方正(ファウンダー)、長城計算機、清華同方などのメーカーも急成長している。「中国市場で中関村のメーカーが日米、台湾メーカーを駆逐する可能性がある」(日系メーカ関係者)。

 インドを追走する形で世界のソフト生産基地になりつつある中国。中開村はその中核部分でもある。LinuXの中国語版や会計ソフトなどで知られる用友軟件(ソフト)を筆頭に六百社以上のソフト会社が立地、昨年の中開村のソフト輸出額は一億jを超えたといわれる。

  ネット起業、2日に1

 インターネット関連企業の起業も相次ぐ。中国最大のポータル(玄関)サイトで、今年四月に中国のインターネット企業で初めてナスダック(米店頭市場)に上場したシナ・ドット・コムは中開村のはずれに本社を置く。同社がユーザーとして視野に入れているのは中国国内だけではない。香港、台湾や欧米、アジアに住む華人、華僑向けのサイトも開設しており、広告を主体にした売り上げの半分以上は国外で稼いでいる。

 潜在的なユーザー層が十数億人にのぼる中国語圏でビジネスを展開できる中国のネット企業には、投資家の注目も集まっている。中関村には香港、台湾の投資家や米国系ファンドが浸透しており、その資金をベースに「二日に一社のペースでネット企業が設立されている」 (北京市政府)。

 「中開村及び周辺には指術者、研究者が常に五十万人滞留しており、シリコンバレーの三十万人を上回る世界にも数少ない理工系人材の宝庫」。プリンターや半導体生産を展開する四通集団を設立、起業家の代表格とされる段永基氏は中関村の強みをこう見ている。 中開村周辺に立地する大学、政府系研究所は主要なものだけで約七十あり、全国から優秀な人材を集めてきた。中国では末路基首相、胡綿涛国家副主席、呉邦国副首相ら国家指導部には中国の理工系大学の頂点である清華大の出身者が多く、国家は中関村に人材を集め、研究資金も投入してきた。

 そうした中、ヒ九年に鄭小平氏がスタートさせた「改牢・開放」政策や九二年の社全主義市場経済の導入で、各大学、研究所は研究成果をビジネス化し、資金を得るチャンスを得た。一部の起業家センスを持った若手研究者は資金、設備面の支援を受け、企業を立ち上げた。

 連想は民営企業のイメージが強いが、実は政府傘下の中国科学院が六〇%の株式を持つ国有企業。同院計算技術研究所からスピンアウトsした柳雲志総裁ら4人が設立した際に出資を受け入れたためだ。現在は経営す陣や社員が残り40%をもっており。国の経営への介入はまったくなく、はぼ完全な民営企業」とパソコン部門の連想電脳公司の揚元慶・総経理はいう。

  VCの役割 政府が担う

 パソコンで連想を追う北大方正、清華同方の両社は社名からねかるように国立大学である北京大学、清華大学傘下の企業。形態は国有企業だ。北大方正はパソコン用ソフトの製作から出発したが、ハードにも進出、「ファウンダー」ブランドで今年一−三月期には国内で第二位の八・四%のシェアを獲得している。 資本的には国有色が残りながら、経営は民間手法という「国有民営企業」が中閑村発展の庶動力になってきたのだ。中開村が目標とする米シリコンバレーでベンチャーキャピタルが果たした役割を中関村では政府が担ったといえる。

 「エリート学生の気質が米国に近い」。日本企業の関係者はこう指摘する。中開村で起業されるネット企業の社員は北京大、清華大、北京航天大などエリート校の新卒者が過半。技術担当役員が卒業から三カ月の新卒者というケースすら為る。ネット企業の初任給は平均で一流官庁の中堅管理職の三倍以上の五千元(約ヒ万円)ということもある。学生に官庁や大企業への就職より未知の企業にかけるリスクテークの気質が強いことが中関村を押し上げている。

 「十八カ月でナスダック」。中関村では最近、こう大書したTシャツが売られているという。米系投資銀行が中関村のIT企業に片っ端から海外上場を勤めた結果、今や経営者及びストックオプションを得る幹部社員はナスダックを視野に経営を進める。あまりに近視眼的な経営になれば問題はあるが、この単純で明快な目標が中関村をさらに拡大させる可能性は高い。