世界トップ企業続々進出、シリコンパレー追う
From:日経産業新聞 200069日 28

 顔をパソコン画面に向けたまま後ろに立つ郡小平氏に説明する天才パソコン少年−。八四年、上海で開いた中国初のパソコンソフト競技会を写した一コマだ。中国人なら一度は見たことがあるといわれるほど有名なこの写真が中関村にあるマイクロソフト中国研究院に保存されている。

 後年、中国の理工系大学の最高峰、清華大学を首席で卒業、博十号を得た後、南カリフォルニア大に留学した写真の少年が同研究院の李軌研究員だ。同氏は立体感のある映像をパソコンなどの画像上で表現する三次元画像処理の研究に取れ組んでいる。

 数学や物理の 天才20人集う

 マイクロソフトがこうした基礎研究を進める研究所は世界で米レッドモンド、米サンフランシスコ、英ケンブリッジと北京・中関村の四カ所しかない。北京の研究員は総勢でわずか二十人だが、「全員が中国で数学や物理の天才と呼ばれる人たち」と李開復・院長は言う。マイクロソフトが北京を選んだのは世界で最優秀の人材を集める目的だ。

 IBM、インテル、モトローラ、ノキア、ノーテル、ルーセント、富士通−−。この数年、世界のトップレベルの企業が続々、中関村に情報技術T分野の研究・開発センターを開設、規模の差はあるが、その数はすでに五十社以上といわれる。

 マイクロソフト中国研究院のように基礎研究に特化した研究所はまだ限られているが、米ゼネラル・エレクトリック(GE)がCTスキャンなど電子医療機器の研究所を北京に集約する方針を明らかにするなど、グローバルな研究開発体制の中に中関村を位置づける企業は確実に増えている。

 上海・浦東地区に中国最大の合弁半導体工場を昨年、、稼働させたNECも特定用途向けICASIC)など半導体の設計子会社、華虹NEC集成電路設計は上海ではなく、中関村にほど近い西城区に設立した。「質の高いエンジニアをこれだけまとまって集められるのは中関村を中心とした北京しかない」と天野省三社長は指摘する。

 二、三年まで北京に研究開発センターをを開設する目的は、理工系人材の雇用コストの安さや権益獲得を狙った中国政府向けアピールに主眼があった。だが、米国やドイツ、韓国が外国人IT技術者向けの滞在ビザの発給緩和を打ち出すなど世界的にIT人材の攫得競争が激化する中で、中関村はグローバル企業にとって魅力的な進出先に変化しつつある。

  米国留学後  戻って起業

 「創業者の我々四人はMIT(米マサチユーセッツ工科大学)の同級生」。今年二月に北京で創業したオフィス用品を主体とするインターネット販売事業者、アジアEC・コムの邱子磊・総裁は起業の経緯をこう説明する。四人はMIT留学後、ヒユーレット・パッカード、アップルコンピュータなど米国の一流企業で菅理職ポストにあったが、「チャンスは中国の方が大きい」とみて昨年帰国した。 中国では今なお米国への留学が才能と意欲のある若者の最大の夢だ。だが、留学後そのまま米国で就職、永住樅を得るといった「脱中国」の人生設計を変更し、中国に戻って起業する留学組が確実に増えている。彼らを呼び戻しているのは中関村が持つダイナミスムと未来の可能性だ。

 ただ、現在の中関村ブームが七九年の「改範・開放」後、数度にわたって熱狂と冷却を繰り返した外資の対中投資と同じような軌道をたどらないとは限らない。実際、中国政府によるインターネットヘの税制強化、情報通信分野への外資出資の制限など中関村の基盤を崩す潜在的リスクは今も少なくない。失敗した起業家たちを再起させる社会的メカニズムもまだ整っていない。

 中関村への海外企業の進出も中核スタッフを海外に転勤させるだけで一気に潮が引く可能性もある。マイクロソフトやインテルはインドのバンガロール、イスラエルのハイファ中関村の代替地を抱えている。           
  半官半民で  広域園構想

 中関村科技発展有限公司−−。昨年六月、中国政府と北京市が「中関村の成長を次の軌道に乗せる」 (関係者)狙いで連想、四通集団など中関村の代表的企業と共同で設立した半官半民の企業だ。

 この企業をベースに手狭になった中関村を北京市内の豊台、酒仙橋、昌平、亦荘の四カ所の技術開発区と一体化し、北京市の面積の三分の一に及ぶ延べ三百四十平方`bの″広域中関村″を構築。さらに「青年創新基金」と名付けたベンチャーファンドを運営、起業家を支援する構想だ。

 土地と資金のボトルネックを解消する狙いで、これによって中関村企業の売上合計は「二〇一〇年に九九年の七倍の六千億元(約八兆円)まで拡大できる」と劉志華・北京市副市長はみる。だが、政府主導、ハード重視だけで次の発展が保証されるか、疑問もある。 米シリコンバレーで長年働いた経験を持つ李マイクロソフト中国研究院長は「シリコンバレーの持つ民間主導、市場係争の徹底という文化こそ、今後の中関村に必要」と指摘する。

 中国の経済発展は深桝経済特区で始まった。ITを中核据える二十一世紀の中国の産業政策が成功するかどうかのカギは中関村が握っている。

   (北京=後藤康浩)

中関村にある主な大学

北京大学
清華大学
北京理工大学
北京航空大学
北京人民大学
北京郵電大学
北京交通大学
北京師範大学
北京情報工程
北京計算機学院
中央財政金融学院
連合大学電子工程大学

中関村にある主な研究機関

中国科学院電学研究院
  〃  半導体研究所
  〃  軟件(ソフト)研究所
交通省科学研究総院
航空工業設計研究院
鉄道省科学研究院
中国空間技術研究所
北京商業機械料学研究所
中国料学院研究生院